STAY ON EARTH(地球にいよう)

まったくひどい。人は人に近づくな、対面するな、家にいなさい、一人でいなさい、大声を出すな。こう世界中でお願いされています。今般の新型コロナウイルスについてですが、人が活動をしないということが感染防止のための最良の策だと聞こえてきます。全人類に、同時に、活動の停止を要求できるつわものがこの世にいたとは!

おそかれ早かれ景気後退と失業が起こるかもしれません。人はあせり、いら立ち、怒りの矛先を誰かに向けたくなる。「誰のせいだ?」と責任をなすりつけたくなり、「お前のせいだ」「オレじゃねえよ」と言い合いになる。大きな争いが起こるかもしれません。そうなればそれこそ破局です。奇しくもウイルスを退治する免疫細胞が暴走して体を重症化させるのと似て、誰かが拳をあげて「暴走」したら社会を重症化しかねない。今回のことは単純な正義・不正義の話ではないでしょう。誰かが勝者になるという話ではない。誰かをやり玉にあげて罰すれば済むという話でもない。地球上で全員が生き延びるにはどうしたらいいかと、追加の宿題 ――「頑張らないということを頑張れ」と、お寺の和尚が言い出しそうな宿題を課されたという話です。

どう対処すればいいのか。これまで通りに頑張るなら、テレビ電話を拡充し、経済活動を保ち、特効薬とワクチンを開発し、ウイルスを一掃する。そして勢いよく活動を再開させる。でも、それで事は済むのか? その場しのぎにならないか? 環境問題と歩調を合わせるように、この半世紀に40種の新興感染症が発生し、この20年間にも新型ウイルスが何度も襲ってきました。今回のウイルスが去ってもすぐに新しいのがやってくるのでは‥‥。「あなたがた人類がそうして頑張るなら、わたしたちウイルスも変異して頑張りますよ」。こんな脅しが聞こえてきそうです。いわば自然の側からの文明批判。これまでの我々の頑張りに対する批判です。「知らないよ」と無視できないところがつらい。利益追求で大量の生産・消費・廃棄をくり返し、自然をなぎ倒して温暖化問題を招いていますから。

何かを見直すときかもしれません。我々は地球上で勝利を収めてきました。火をおこし、電気を使い、原子力まで応用しています。すごい技術です。この技術を「頑張らない」という方向で生かせないか。共存とか協力とか平和とかの方向で。せめて、「勝つことだけを目的にはしない」という方向で‥‥。一応の衣食の足りた人と人との間の勝負事が、今ほど場違いに見えることはありません。戦争はおろかギャンブルからスポーツに至るまで。勝たんと頑張ってきたがゆえの「コロナ禍」でないのか? 競り合う楽しさ、勝つ喜びといった志向を、当座だけでも転換できまいか。「高校生になってもまだイジメかよ?」と軽蔑して言い放つ中学3年生の「大人感覚」のようなものへ。価値の見直し、意識の転換ですが、我々は資本主義経済のもとで闇雲に欲望を刺激されていますから、つい勝ちたくなる。しかしその欲望を今たしなめられているような気がするのです。ライバルが自家用ジェットを4機持っているから必要ないけど5機目を買ったというような欲望を。

それでも立ち止まらず、英知を結集して「頑張って勝つ」という方向へ技術を高めていくなら、もう地球は狭すぎるかもしれません。実際に頑張っていますね、火星移住へ向けて。火星もいいかもしれませんが、互いに競り合い、発展するそばで、地球が壊れていくなら、火星に行ってもいつか火星も壊すのではないか。辛気くさい結論ですが、人に勝つことより、人と仲良くすることを念頭においたほうが、「宿題」の答えに近づきそうな気がします。